ミャンマー独特の教育制度「寺院学校」の特徴をまとめてみた

ミンガラーバー
hiroaki(@hiroaki_kuroda)です。

皆さんはミャンマーに寺院学校という教育制度があるという話をこれまでに耳にしたことがありますか?

あまり有名ではないかもしれませんが、実はミャンマーの子どもたちにとってなくてはならない超重要教育機関です!

そこで今回はミャンマー独特の文化であり、教育制度でもある寺院学校について皆さんに紹介していきます。

まずはじめにザクッと説明してしまうと、
ミャンマーの寺院学校はかつて江戸時代の頃に栄えた日本の寺子屋のようなものです。

しかし日本の寺子屋が時代の流れとともに衰退したのに対し、
ミャンマーの寺院学校は廃れることなく、むしろ現在に至るまでどんどん需要が高まってきています。

また、ミャンマーらしくというか世界一寄付をするミャンマー(詳細はこちら)だからこそ成り立っているのですが、なんとほぼ100%地元住民からの寄付で運営されています。

なおこの記事の内容は基本的に同僚のミャンマー人から得たインタビュー結果をまとめたものです。

ミャンマーには義務教育がない!?

まずはじめに義務教育制度について説明しておきます。

実はミャンマーには義務教育制度はありません。
(法律上は存在するかもしれませんが、国民に広く周知はされていません。)

よってミャンマー人は5歳になると小学校に入学する権利はもらえるが、義務ではないという理解をしています。ミャンマー政府は子どもを小学校に入学させるよう勧めていますが、最終的な判断は両親に委ねられているのが現状です。

寺院学校と公立学校の違い

では次に寺院学校の特徴を公立学校と比較しながら見ていきます。

寺院学校 公立学校
管轄 宗教省 教育省
学費 無償 無償
制服 1セットのみ支給(2) 1セットのみ支給(2)
教科書 無償支給(3) 無償支給(3)
筆記用具 無償支給 支給なし
食事(給食) 無償支給 支給なし
仏教教育 有り 無し(4)
ルール ゆるい(5) 厳しい(5)
小学校 有り 有り
中学校 有り(6) 有り
高校 無し(7) 有り

注釈説明(↓)

(1) 管轄は宗教省だが、教育カリキュラムは教育省に準じる
(2) 近年賄賂が横行し、支給される制服の質は悪い
(3) 前年の在籍数に基づいて支給されるため足りないことがある(足りない分は支給されないので購入する必要あり)
(4) 朝礼時や朝一の授業開始時にお祈りをするだけ(全くしない公立学校もある)
(5) (例)
寺院学校:生徒が両親の仕事を手伝っている等の事情を勘案し日常的に遅刻することも認められる
公立学校:日常的な遅刻は認められない(始業時間に厳しい)
(6) ミャンマーの中学校は5年生から8年生の4年間だが、基本的に寺院学校は7年生までしか教えることはできない(詳細は後述)
(7) 寺院学校が高等教育を行うことは認められていない

以上が寺院院学校と公立学校の主な違いです。

この表から読み取れる寺院学校の最大の特徴は、お金が一切かからないということです。

授業料・教科書代・筆記用具代・食事代それら全てが無料です。そして驚くべきことに、ほぼすべて地元からの寄付によって賄われています。

これに対し、公立学校は授業料こそ近年無償化されましたがそれ以外は有料です。

後発開発途上国(詳細はこちら)に分類されるミャンマー(特に田舎)ではまだまだ貧しい人々が多く、お昼ご飯を毎日作って子どもたちに持たせることさえ難しい人たちもいます。

両親の仕事を手伝ってから登校する生徒は公立学校の始業時間に間に合いません。しかしそういった日常的な遅刻登校は公立学校では認められません。

このような貧しい村の中に寺院学校があります(↓)

このように金銭的および制度上の事情から公立学校に子どもを通わせることのできない親が完全無償かつ家庭の事情にも配慮してくれる寺院学校に子どもを入学させています。(資金に余裕があり公立学校に通わせることもできる家庭が、子どもに仏教教育を受けさせるためにあえて寺院学校に入学させるケースもありますが、金銭事情によって寺院学校を選択した生徒が大半です。)

つまり寺院学校は貧困により子どもの教育機会が失われてしまうことを防ぐ大切な役割を果たしているのです。

教育制度(学年)について

ミャンマーの現行制度では小学校入学から高校卒業まで11年かかります。

しかし国際基準は12年(日本も6・3・3の12年ですよね)ですので、これから数年をかけて教育制度の見直しが行われることがすでに政府レベルで決定されています。

そこでこれから具体的にどのように変わるかをまとめました。

現状 将来
小学校 就学前教育〜4年生(5年間) 就学前教育〜5年生(6年間)
中学校 5年生〜8年生(4年間) 6年生〜8年生(3年間)
高校 9年生〜10年生(2年間) 9年生〜11年生(3年間)

注)ミャンマーでは1年間の就学前教育を経て1年生になります。

5年生が初等教育に編入され、高等教育に新たに11年生が追加される予定です。
これにより小学校入学前の就学前教育を含めて国際基準に適合した12年間の教育制度になるわけです。

しかし上述の注釈の通り、寺院学校は基本的に7年生までしか教えられません。

ただし例外的に8年生まで教えることが認められている寺院学校が地区ごとに1校だけ設定されています。私が住んでいる西バゴー地区では、タタナラキタ寺院学校がこの特別校に該当します。しかしタタナラキタ寺院学校のような特別校であっても、寺院学校である以上、高等教育を行うことはできません。

これついて確かな理由はミャンマー人にも分からないとのことです。どうして中等教育の最後の1年間だけ認めないのか、、、本当に謎ですね。

小学生でも留年する!?

なんとミャンマーでは毎年のように進級試験が行われ、基準点以上の成績を修めないと小学生でも普通に留年します!

  1. 就学前教育から1年生に進級するとき
  2. 1年生から2年生に進級するとき

この2つだけ例外的に試験なしで自動的に進級しますが、その他の学年では毎年進級試験が行われ、留年する生徒もいます。

つまり最も速く留年するケースでは、3年生への進級ができずにもう一度2年生を繰り返す生徒がいるということです。

10歳に満たない子どもが留年するというのは日本では考えられませんがミャンマーでは日常的に起きています。

進級試験の時期と合格判断基準

これを説明するために、まずミャンマーの学期について説明しておきます。

1学期 6月〜10月
2学期 11月〜12月
3学期 1月〜2月下旬または3月上旬

このようにミャンマーは日本と同様に3学期制を採用していますが開始時期が異なります。また10月末と12月末に1週間から10日ほどの短期休暇、3月から5月は(40度越えの猛暑日が続く時期なので)長期休暇があります。

そしてこれも日本と同様にそれぞれのそれぞれの学期末にテストが行われます。
その3回のテストがすべて進級試験となっていて、全3回のテストの平均点が一定の基準を超えると新学期から一つ上の学年に進級することができます。

基準点を満たしていない場合はもう一度同じ学年をやり直します。また、義務教育制度がない(または義務教育の認識がない)ため退学する生徒もいます。

特別な進級試験

上述の進級試験は基本的に生徒が通っている寺院学校で行われますが、2つだけ別の会場で受ける特別な試験があります。

8年生から9年生(高校生)への進級試験

この試験は中学から高校へ進学する権利を得られるかどうかが決まる大事な試験で、受験会場がそれぞれの居住地区ごとに指定されています。私が暮らしている西バゴー地区の場合は、ジンチャンタウン寺院学校が試験会場として設定されています。

試験会場までの足代(車や運転手、ガソリンなど)は各寺院学校が負担するため、財政を圧迫する要因となっています。(後述する学校支援委員会が車や運転手を出すなどの対応をすることが多いです。)

10年生から11年生(大学生)への進級試験

セーダン試験と呼ばれており、ミャンマー人はこの試験の成績で将来が決まると思っているくらい大切な試験です。日本のセンター試験のようなものでミャンマー全土で大々的に行われます。

各地域に存在する複数の公立高校の中からミャンマー政府が地域ごとに毎年異なる会場を指定し、生徒たちは指定された高校で受験します。ちなみに私が暮らすピー郡には5つの公立高校があります。

チューシンとは

ここまで説明した通り、ミャンマーでは幼い頃から留年する可能性があるため経済的に余裕のある親たちはこぞって家庭教師を雇ったり子どもを私塾に通わせたりしています。ミャンマーではこれをチューシンと呼びます。

しかしこの制度には法律上のある問題が隠されています。

それは、家庭教師や私塾の講師が教職員である場合が多く、教職員が本業以外で収入を得ることは禁止されているということです。

講師をしている教職員も、私塾に子どもを通わせる親も双方ともに違法性を認識しながら行っているというのが現状です。

しかしそうでもしないと留年してしまうわけですからミャンマーの教育制度はかなりスパルタと言えるかもしれません。(寺院学校の教員のレベルが低く、日中の学校で教える内容が十分ではないというのが根本的な問題ですが、、、)

教職員その他の月給について

スキルに応じてピンキリですが、平均的な給料を高い順に載せておきます。
(私がインタビューしたピーに暮らすミャンマー人の感覚値です。ヤンゴンの相場はもっと高いです。)

国際連合関連組織職員 600,000チャット/月
国際NGO職員 400,000チャット/月
政府職員 180,000チャット/月
一般企業職員 180,000チャット/月
公立学校教員 180,000チャット/月
日雇い労働者   96,000チャット/月
寺院学校教員   60,000チャット/月

この表を見て皆さんはどう感じるでしょうか?

私はNGO職員の給料がこんなに高いなんて知らなかったので本当にびっくりしました。(以前の記事で紹介したように)日本では給料の低い仕事の代表みたいなNGO職員が公務員よりもお金をもらえるんですよ!?

国連や国際NGOなどの海外関連の仕事の給料水準が政府職員の2倍ですからミャンマー国内の給与水準がどれほど低いかが推し量られます、、、

でも一番の問題は寺院学校職員の給料が日雇い労働者以下ということですよね。
(日雇い労働者の給料は1ヶ月間、平日毎日最低賃金で働いた場合の値です)

これはミャンマー政府が最近日雇い労働者の最低賃金を引き上げたことによって生じた格差です。(この件に関するニュースはこちら

以前の日雇い労働者の最低賃金は1日3000チャットほどでした。1ヶ月間、毎日平日働くと60000チャットですね。しかし最近、最低賃金が1日4800チャットに引き上げられたため1ヶ月の収入額が96000チャットに上がりました。

じゃあ寺院学校の先生も最低賃金1ヶ月分の96000チャットもらえるんじゃないの? と思われる方も多いと思いますが、ここで一つ思い出して欲しいことがあります。

寺院学校の運営資金はどこから出ていますか? 地元からの寄付でしたよね。

つまり、法律上の最低賃金が上がっても寄付額が同じように上がらなければ寺院学校職員の給料は上がらないのです。ミャンマー政府が寺院学校職員の給料を一部補助していますが、全然足りていないのが現状です。

寺院学校はどうやって運営されているの?

特別な試験についてご説明したときに学校支援委員会というワードを出しました。

この組織は文字どおり寺院学校を支援するための団体で、地元住民のボランティアで構成されています。

寄付金を募ったり、特別な試験を受けるときに試験会場まで生徒を送迎したり、傷んだ校舎の修繕をしたりと、寺院学校の運営に関するありとあらゆる補助を行います。子どもたちのために毎日3食分の食事を調理しているのも地元のボランティアの人たちです。

私から見ると、寄付やボランティアだけで成り立っている寺院学校は本当に奇跡のような存在です。

このような奇跡の学校がミャンマー全土に無数に存在し、数え切れない数の子どもたちに衣食住と教育を提供しているのです。(親をなくした孤児や実家が遠い生徒などが寺院に寄宿しています)

僧衣を着ている子どもたちが寺院に寄宿しています(↓)

ミャンマーに来たらぜひ一度寺院学校に足を運んでみてください。

びっくりするくらい地元と密接に関わっている姿を間近で見ることができますよ。

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ABOUTこの記事をかいた人

大学時代に途上国を一人で周ったことをきっかけに国際協力業界に興味を持ちました。 新卒で入社した民間企業を退社した後、オーストラリア語学留学を経て、現在はミャンマーで国際NGOのインターンとして活動しています。 ミャンマー情報を中心にその他興味のあることを発信しています。